南ア 甲斐駒・仙丈

 

 

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甲斐駒から北岳


 

1960年8月

 

参加者       丸尾寛治     伊東 毅

 

8月21日

新宿発(0:10)=韮崎(4:31~4:34)=駒ケ岳神社(5:33~6:15)~かゆ餅岩(9:00~9:35)~昼食(10:50~12:00)~刀利天(12:40~12:50)~五合目屏風小屋(13:30~14:05)~七合目山の家(15:15)

 

 前日8時ちょっと前に新宿駅に、台風の影響かまだ10人ほどしか並んでいない。じきに今回の相棒、丸尾がやってきた。やつのザックは尺6ぐらいか、ずいぶん小さい、それに形がおかしい。直してやろうとザックの紐をといたが、なんと丸尾のやつ、重いものを下に軽いものを上に詰めている。シュラフだけは電話で教えておいたから一番下に入っていたが、これでは仕方がない、パッキングのし直しだ。細かいものはこちらが引き受けていたのでよかったが、これでは先が思いやられる。

 汽車はガラガラ、1両に10人ほどしかいない。これはいいやと座席のシートを外して通路に2枚敷いて即席ベッドを作る。車掌に怒られるかと思ったが、何と言うか来るまで待とうと横になって寝ていたところ、発車してすぐ改札に来た。びきびくしながら狸寝入りをしていたら、「後で片付けといてくださいよ」ですんだ。やった、安心してぐっすり眠り、甲府で目が醒めた。停車中にホームで顔を洗う、いい天気で、暗いけど茅ヶ岳が黒く見える。台風が来るということだったが、予報が外れてくれた。韮崎で下りるとバスが待っていた、23:55発の人たちもここで一緒になり、乗ったらすぐ発車。

 去年の台風で荒らされてひどい道でものすごく揺れる。乗客は全て駒の登山者で10人ぐらい。空が白んで八ッがよく見え、駒・鳳凰も見え出す。駒ケ岳神社で朝飯、おにぎり3個半、丸尾は弁当、ゆっくりキジ打って最後に出発。

 駒ケ岳神社に参拝して登山道に入る。尾白川を渡ってすぐ急坂が始まる。普通のピッチだが最初から急登なので暑くなってくる。先行パーティーに追いつき、尾白川渓谷道を分け、ひとしきり急登が続く。この笹平の登りは大したことはないだろうと思っていたので余計辛い登りだった。2ピッチ半でかゆ餅岩という水場に到着、冷たい水に生き返る思い。このあたりからようやく調子が出てくる。

 丸尾は体力がある、なかなか強い。しばらく行くと刃渡りなるところに出た。大した岩場じゃないが鎖がついていて丸尾はしきりに怖がっている。台風で山肌が剥かれたように荒れている、岩の上にあった木や土が流されて谷に落ちてしまったという話だ。信仰の山らしく石碑だの刀などあちこちに置かれている。黒戸山を捲いて5合目の鞍部、先にある小屋でひと息入れて出発。すぐ梯子登りが始まる、先日の朝日新聞にこの岩場のことが出ていてスリルが味わえると書いてあったので期待していたのだが、梯子ばかり、木が多くて暗くスリルなんてひとかけらもない。八ッの方がよっぽどいい、ややがっかり。岩登りならぬ梯子登りの連続で何と言うこともなく七合目に到着、第一山の家に入る。

 すぐ飯の仕度、水場は小屋の前だ、アルコールバーナーでカレーを作る。ニンジンが固かったが割りに美味い、飯もうまく炊けた。食べたら明日の仕度をして寝る、毛布をふんだんに使ってシュラフは出さなかった。ぐっすり眠れた。

 

                   行程図

8月22日

起床(1:00) 出発(4:35)~八合目小屋(5:15~5:25)~駒ケ岳頂上(6:30~7:10)~仙水峠(9:40~11:10)~北沢河原(11:45~12:15)~長衛小屋(12:45)

 

 1時に目が醒めた、早すぎると思ったがまた眠るのも何だからと起きだしてしまう。他の連中はもちろん白河夜船、空は満天の星、ものすごい数で星座が見分けにくいぐらいだ。そんなに寒くなく気持ちがいいくらい、火を燃やして飯盒をぶら下げる。誰も気がつかず、ゆっくりやる。味噌汁もバーナーで作る。このバーナーが意外に火力が強いのでびっくりした。飯が出来たので丸尾を起こし、ローソクの灯りで朝食。食器洗いは手が冷たかった。パッキングしていると、ようやく小屋の人が起きてきた。キジ打ちにローソクを持って行ったが風が強く役に立たなかった。丸尾は変わっていてまるでキジを打たない、それで平気な顔をしている。ついに今山行中、一度もキジを打たなかったようで不思議なやつだ。

 ほの明るくなったところで出発、しばらく樹林帯、ご来迎を拝んでまた登る。雲海が素晴らしい、八ッ、金峰、北ア、妙高あたりが浮かんでいる。富士と鳳凰が重なって見えている。ハイマツ帯に出ると涼しい風があたる。八合目の石鳥居で一発、北岳が素晴らしい、バットレスの半分が見える。北岳の手前に早川尾根が長々と延びている。鳳凰まではずいぶん遠い。写真を撮って出発、岩の間のいい道の登り、予定タイム通り駒の頂上に着いた。展望は最高だがパノラマ写真を撮ろうとしたらフィルムが切れてしまった、残念。

 南アの山波は豪快だ、ここから仙水峠まで1000メートルの急降下、はるか下に峠が見えている。最初しばらくは岩の下り、御影石でもろく、浮石多くいやなところだ。岩稜をまっすぐ下りて駒津峰とのコル、右側が切れている。暑くなってきて、仙水峠へ下れば下るほど、正面の栗沢ノ頭が高くなり、登りがきつそうだ。長い下り、駒ははるか上になった。一気に下ろうと走ったのが悪かったのか足が痛くなってきた。なかなか下りつかない、おまけに早起きのせいで眠くなってくる。道も悪いのでうんざりしてしまい、ここで早川尾根はあきらめて北沢へ下りることにした。予定変更だが仕方がない。

 仙水峠で昼食、峠は石がゴロゴロしている。北沢へゴーロから樹林帯に入ったところでリスがいた。前方でガサガサするので見るとピョンピョン小さなやつが飛び出して行った。自然の中でリスに会ったのは初めてだった。ほどなく北沢の河原に出る、ジュースが美味い。荒れた河原をケルンに導かれて下るとつぶれた北沢小屋がある。中を覗くと十分宿泊出来るようだ。すぐに長衛小屋に着く、こちらはずいぶん大きい小屋で犬がいた。入ってごろり、横になって休む。聞いたら仙丈まで往復5~6時間とのことなので明日は仙丈に登ることにする。

 ゆっくり飯を作り、ゆっくり食べる。コーンスープを入れた野菜スープが美味かった。明日の飯も作っておいた。明日は往復なので丸尾のザックをサブザックにして二人分の荷物をまとめて入れて交互にかつぐことにする。今夜はシュラフで眠る、寝具付は250円もするので。

 

8月23日

起床(4:30) 長衛小屋発(5:50)~北沢峠(6:00)~三合目(6:30~6:40)~五合目分岐点(7:03)~藪沢小屋(7:13~7:25)~カール底仙丈小屋下(7:55~8:10)~仙丈岳(8:30~8:40)~五合目(10:25~10:40)~長衛小屋(11:20~12:30)~赤河原(13:25~13:35)~戸台川河原休憩3回~戸台(17:10~17:35)=伊那北(19:05~19:12)=辰野(19:45~22:02)=新宿(4:30)

 

 起きるのが少々遅かった。すぐお湯を沸かし、お茶漬けのりで朝食、予定より50分遅れて出発。ザックはまず丸尾が背負う。北沢峠まではすぐ、左に折れ急坂だが空身だから楽、樹林帯をジグザグの登り、三合目で一発、ザックを交代、急坂を登り、五合目分岐点から藪沢コースに入る。山腹を捲く平らな道で、途中いくつも水が落ちているところがある。藪沢小屋で一発、今度は沢に沿ってしばらく行き、途中から沢の右側の山肌に取り付く。

 暑くなってくる中、潅木帯を抜けてハイマツの稜線に出る。ここは涼しい、仙丈のカールが良く見える、山頂で人影が動いているのも見える。ここからカールの底へ下りるといい水が流れているのでジュースを一杯。すぐ上に仙丈小屋、二棟あり完全な石室風だ。横を素通りして右手のザレを登り、市野瀬の分岐を見送り、稜線を辿って頂上へ。

 頂上は余り広くない、祠が一つある、北岳方面の眺めがいい、駒が立派に見え、鳳凰の上に富士、北岳間ノ岳、農鳥、その右に塩見、その向こうに赤石が浮かんで、手前には長々と馬鹿尾根が横たわっている。遠くに雲海に浮かぶ中央アルプス、御岳、乗鞍、北アルプスキレットの形が八ッで見たときと違って見えるのが面白い。妙高も見え、ずっと回って八ッがきれいに見える。まったくすごい眺めだ、空は真っ青だし、台風はどうしたのかと思う。記念に丸尾と二人で石を積んでケルンを作った。

 フランスパンを1個ずつ食べて下ることにする。カールが足下から左右に広がっている、3つか4つあるようだ。小仙丈へと岩ザレとハイマツの稜線を辿る歩きよい道。小仙丈は捲いてそこから急な下りになる。昨日で懲りたから余り飛ばすのは控えたが、それでも空身だから楽だ。大滝頭で立て、途中から右へ捲き道に入るとすぐ沢音が聞こえるようになった。この捲き道の途中でハツタケと思われる群落を発見したが、確信が持てないので採集はやめておいたが、この山はきのこが多いようだ。捲き道途中で台風で崩れたガレのようなところを下って、北沢峠からの道に出ると長衛小屋はすぐだった。

 小屋に入って昼飯、3日間2人でマーガリン4分の3ポンド食べたのは我ながらびっくり。パッキングして出発、北沢峠を越えて戸台へ向かう、急な下りだが今日はそれほど辛くない。赤河原で立てて今度は河原歩き、台風の猛威で川幅が広くなって石がゴロゴロして歩きにくい。河原の一段上には道があるのだがずたずたに切れていて使えない。ケルンとペンキの矢印を目当てに歩くのだがそれも途絶えがちで難渋、それも長くあきあきしてくる。

 地形が変貌して谷底では自位置の確認が出来ない、目標になるものがないので困った。台風の被害がこれほどひどいとは思わなかった。だんだん足ががくがく言い出して止まらなくなってしまう。そうこうしているうちに右岸に渡るべきところを通り過ぎてしまい、どうにも渡れなくなってしまった。ここまで来ると流れは強く、靴を脱いで渡渉も大変なのでそのまま左岸を歩く。右岸にはどうやら道がついているようでまったく不覚であった。やっとの思いで部落が見えるところまで来て、これで渡るところがなければ、いよいよ渡渉かと心配したが運良く丸木橋がかかっていた。渡って部落の方へ急ぐと16時55分のバスが走っていくのが見えた。腹が空いてフラフラ、バス停に売店があることを祈って右手の土手を登り、新築のきれいな小学校の脇を通り、小黒川橋を渡って、やっとの思いで戸台バス停留所に辿り着いた。

 

 

目当ての売店に飛び込んでパン、クラッカー、牛乳と続けざまに腹に入れる。バスはもう来て待っている。さらにサイダーを飲んでバスに乗り込んだ。先ほどの売店の売り子も店を閉じて乗ってきた。地元の人たちばかりでにぎやかだ。三峰川に沿って走るいい道で窓の外にはいくつものダム、人工湖が出来ていて、なかなかいい眺めだ。高遠で乗り換え、今度は大型のスマートなバス、都バスなどより立派だ。伊那北飯田線、面白い構造の車両だった。辰野駅で接続が悪く2時間半も待たされ、夜行列車は込んでいた。新宿早朝着、疲れた。

 

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