奥秩父縦走  

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1960年10月12~16日

 

参加者      単独

10月13日

新宿発(23:55)=韮崎(4:09~7:30)=増富(8:45~9:00)~金山~富士見平~瑞牆山~富士見平~大日小屋(15:10)

 

  前日9時半にホームに並ぶ、余り眠れず、八王子で駅弁を買う。韮崎着はまだ暗い、バスの時間まで3時間余り、待合室に座り込んで眠る。成城のWVの大群と一緒になる、20人余り。朝食として駅弁と食パン半斤、寒いので小さくなっていた。バスは件の大群のおかげですし詰め、ザックの山に乗って揺られて天井に頭をぶつけた。

  増富でちょっとゆっくりしていたが、WVが出ないうちにと最初に出る。まずは順調、ザックの重さも手ごろ、金山で最初の一発、腹がすいたのでコッペパンをかじる。木暮翁レリーフを見ようと思ったが動くのが面倒で行かなかった。有井館のまえを通ったが誰もいない。金山峠までほんの少し、瑞牆山荘を過ぎるあたりから足の重さも感じなくなり、富士見平で2発目を立てる。

 ヤッケを着こみ水筒、コッペパンを持って瑞牆に向かう。天鳥沢からの入り口にちょっと迷ってしまったが、苦も無く瑞牆の頂に立つ。余りいい感じの山ではない。八ツは上半分雲の中、金峰は見える。

  コッペをかじってから戻るが、例のWVは瑞牆素通り。後ろをゆっくり歩いていたが横八丁の中間あたりで追い抜き、そのまま大日小屋に出た。ちょっとあっけない。

 大日小屋は素晴らしくぼろい小屋だ。先に大弛から来た2人組が焚き火をしていたので、追加の薪を採ってきて飯の用意、後から来た2人組に一緒に飯をたいてもらい、豚汁もご馳走になる。さらにココアもご馳走になった。狭い小屋で焚き火がけぶって、燻製になりそうだ。早々にシュラフに潜り込む。

 

10月14日

起床(5:00) 発(6:30)~金峰山(8:15~8:30)~大弛(9:55~10:30)~北奥千丈(11:05)~国師岳(11:10~11:30)~昼食(11:45~12:30)~甲武信岳(17:19)~甲武信小屋(17:30)

 

  朝は5時、小屋内一斉に起きる。すぐ火を点け飯盒をかけて飯、豚汁を作る。食欲は順調、パッキングしてトップに出る。

 すぐ大日岩への登り、縦八丁に、小股でゆっくり、徐々に調子を上げる。霜柱が立って木や岩には霜が付いている。大日岩で視界が開け、八ツ、南アが見えた。谷から風が吹き上げて寒い、耳が冷たいが樹林が切れるまでヤッケは待とうと歩き続ける。1回休んで樹林を抜けた。朝日がまぶしい。

 少し歩いてやはり寒いのでヤッケを着て軍手をはめる。岩稜の方が気持ちいい、少々緊張して歩く。千代の吹き上げを過ぎ五丈石がぐんぐん近づく。相変わらず風は強いがとりたてて危険なところもなく五丈石の根元についた。頂上では水を少し含んだだけ、五丈石に登るのは面倒でやめにした。今日は先が長いからと。展望は文句なし、最上の天気だが風が強すぎて寒い。頂上付近の水たまりは凍っていた。

 15分ばかり休んで出発、下り始めると暑くなってヤッケがじゃまになって途中で脱ぐ。朝日岳を過ぎ大弛までノンストップ。大弛小屋は最近修理を施されたようで、住み心地はよさそう。大日小屋とは比べものにならない。甲武信に向かうのは他に3人、みんな金峰小屋泊まりで、昨夜はずいぶん寒かったようで雪も降ったとか。お茶を飲んで出発、ゆっくり登って前国師に出て、北奥千丈を往復してくる。どうってことない頂上、奥秩父最高峰2600mというだけ。すぐ戻って国師頂上で休憩、腹がへったし、甲武信までは長い、落ち着いて行こう。

 休んでいたら下で声がして、人が来るなと思ったら、山岳部の浜田が飛び出してきた。嘉治も鈴川もいる。総勢8~9人、うれしくなった、一人歩きだったから知った顔がなつかしい。それでも長くはいられない、浜田と握手して別れる。彼らは大日小屋泊りだそうで、無人だと言ったら喜んでいた。

 さて、馬鹿尾根の始まり、大股で速く下り、先行の2人に追いつき、一緒に昼飯をする。リンゴをご馳走になる、いいのか悪いのか、こういうのは単独行の副産物かな。倒木がひどくなってきて、先行のもう1人にも追いついた。4人混成パーティーのように一緒に歩く。大クビレからちょこちょこと登り下りを繰り返す。どうも、この3人と一緒に歩いたのは間違いのようだった。というのもペースが目茶目茶で、こちらの調子が狂う。倒木にも悩まされながらとにかく歩く。甲武信のガレが近くなってきたが、時間は遅れ気味。倒木が一層ひどくなり、水師を過ぎ、甲武信の最後の登り、少々足が重い。頂上に着いたときはもう相当薄暗くなっていた。

 展望もそこそこに小屋に向かう。この小屋はすごく立派、雲取小屋よりは小さいがスマートだ。水は汲み置きがあるので助かる。すぐめし、また2人組と一緒の飯盒で炊いて、サラダを作り、缶詰をあけた。食後はストーブを囲んで談笑、またもやココアをご馳走になった。人は多いが広いからあまり苦にならない。山の宿としては割と遅くに就寝。

 

10月15日

起床(4:30) 出発(7:00)~破風・雁坂嶺コル(8:50)~雁坂峠(9:45~10:05)~将監峠(14:30)~将監小屋(14:35)

 

   身体の節々が痛くて、早くから目が覚めた。4時半ごろ、そろそろ起きだしている人もいるので、ちょっと早いがシュラフから這い出た。シュラフを丸め、パッキング、朝飯に使うものを除いて、ほとんど詰め込む。大分ザックがちいさくなった。昨夜の3人がまだ起きないので、ストーブにあたっている。空は少し朝焼け、今日は雁坂で下りるか、彼の3人とはお別れだ。十文字峠方面に行くとか。今日ばかりはゆっくりしたいと思うが、そのうち皆を起こし、朝食をとる。小屋で炊いてもらった飯もうまい。すでにパッキングしてあるので、すぐ出発用意、3人に別れを告げ、一足先に小屋を出る。

 小屋の前から左に樹林の中を行く。道標を見誤ったか、木賊への道でなく、まき道らしい。縦走路に出てから急な下り、登りは辛そう、ゆっくり下る。下の樹間に避難小屋が見え、眼前の破風がぐんぐん高くなるのにはウンザリだが、ゆっくり下ったおかげで足も痛くならず、コルに着いた。ここの避難小屋は立派、2階建てでストーブもある。水場が不明だが、利用価値はありそうだ。

 小屋を出てすぐ破風の登り、さぞかし長いだろうと覚悟を決めてゆっくり登る。このあたり理想的な登降ペース、休みも要らず頂上に達する。富士の眺めがいい、国師の方は雲が出てきた。チョコレートをかじり、また歩く、楽な道、調子もいい。東破風を過ぎ、また急降下、この辺はこういう上下が多い。無理は出来ないところ、小さな上下を繰り返し、徐々に高度が上がるという感じで雁坂嶺に着いた。ガスが出て寒くなってくる。

 ひと下りで雁坂峠、期待に違わずいいところだ。甲州側の笹の急斜面が何とも言えぬ清々しさを作っている。ガスの切れ間に陽の光がさしてトカゲといきたいような気持、このまま下りちゃうのは惜しいような気がしてくる。足の調子は悪くない、天気も悪くない、時間も早い。これなら笠取で昼、将監泊りも楽々だろう。あと一日山に居ようと、下りるのはやめにする。前方に盛り上がる山も、そんなに障害にはなるまい、あれを越せば雁峠、後は楽な林道だ。美しい雁坂を振り返り、振り返り、登りにかかる。水晶山を過ぎ、古礼山は捲く、もう雁坂は視界外、どうしても、もう一晩泊まらなければならないことになる。まあ、いいだろう、考えればこの山行、よく歩いている。たるんだところはない、歩く癖が出来てしまってたるめないのかも知れない。燕山から雁峠へ足まかせに下る。春来た時のことがありありと思い出される。懐かしいような面白いきもちになった。

 ところで雁峠に下りたって、周りを見回したとき、その美しさにおどろいた。まったく素晴らしい、雁坂もきれいだが、ここの方がずっといい。カヤトが色づき、それを彩る紅、黄金、朱、針葉樹のくすんだ緑、円錐形の笠取、雲に見え隠れする和名倉、燕山への急坂、甲州へ、武州へと落ちる谷、空、陽の光も快く調和し、夢を見ているようだ。この美しさには最大の賛辞を贈りたい。静かなのもよく、感激した。こちらに来てよかった。

 腹がすいて笠取小屋へ急がなければならなかったのが残念なくらい。小屋でお湯をもらい、ラーメン、乾パンも少し食べる。小屋のおっさんは無愛想だが、御茶代と言ってお金を出したが、いいと言って受け取らなかった。なんだか変な気持ちで小屋を後にし、林道歩きが始まる。実にいい道、まっ平で石ころ一つない。そして、また静か、山靴の音だけがズスッ、ズスッ、と響く。ガスもかかってきたが相変わらず静か、時間が長く感じる。歩いていさえすれば小屋に着く、歩けばそれだけ小屋に近づく、そう思って黙々と歩く。とりとめのない考えが頭の中を去来する。歩くことに意識を集中しないでいいから、いろんなことを考える。これも林道の良さか、とにかく静かで何となく感傷的になる。この前もこの辺で寂しい思いをしたが、今度もまた同じような、人恋しいような気分。こんな静かな山の中にいると自然そうなるのかも知れない。むきになって歩き続け、将監も近く、山の神、牛王院平になると、また感じが違ってくる。将監はわびしい感じの峠、道標には前回記したサインが薄くなって残っていた。

 将監の小屋へはひと下り、小川を渡って入ると、若い人が一人、番をしていた。小屋は立派で大きい、ほかには誰もいない。はじめは無愛想だったが、だんだん打ち解けてよかった。飯を炊いて、中に野菜を少し入れたが味付けを忘れた。でも缶詰を開けて夕食。まだ時間は早い、ヒマなのでストーブにあたっている。暗くなってきたが誰もやって来ない。今晩は一人だけかと思ったが、相当暗くなってから一人来た。もう中年に近いおじさん、和名倉を目標にしてきたそうだが、小屋の人に止められて残念がっていた。奥秩父はかなり歩いているようで、いろいろ道具を工夫して持ってきているので感心した。なるほどと思わせるところをうまく工作して、なんでもスポーツ用品店、メーカーという気持ちを改めさせてくれた。キャラシューを履いていたが、山靴でもキャラシューでも、こんな人にとっては大したことじゃないのかも知れない。先にシュラフに入ったが、今日一日の反省で寝つけず、ようやくその人が寝てから眠った。寒く、ズボン下を履くべきだった。

 

10月16日

起床(6:20) 出発(7:10)~ハゲ岩(8:40~8:50)~前飛竜(9:15)~サオラ峠(10:20~10:50)~丹波(12:10~12:45)=氷川(14:00~14:11)=立川(15:23)=帰宅(16:40)

 

 起きるとすぐ火を焚く。小屋番も起きてこないので自分でやる。でも木が湿っていて燃えつかない。アルコールをかけて、やっと火がついた。飯盒をかけて昨日の余り飯をおじやにする。いとも簡単、粗末な食事。缶詰の残りを食べ忘れた。同泊の人は何やらこまごまとしたものをたくさん持っていて、ココアをご馳走になる。そのうち小屋番も起きてきた。今日は早く下りよう、そして床屋に行ってさっぱりしようと、珍しいことを考える。

 前飛竜から丹波に下りれば早そうだ。バスの時間を教えてもらい、また一足先に出発する。近道から林道に上がり、右に大菩薩、富士を眺めながら歩く。飛竜までノンストップ、ズボンが朝露に濡れる。ハゲ岩で休み、みさか尾根に入る。シャクナゲの根っこに足をとられる。ビブラムで乗るとツルリといくのでトリコニーでひっかけようとするが、たまに外れてツルリ、ズルズル、いやな感じ。前飛竜からはいい道になり、ぐんぐん下って、予定より大分早くサオラ峠に着いた。

 明るい草原がいい感じ、ポカポカと暖かい。トカゲを20分、丹波の部落が見えている。もうあと少しだと思う気持ちと、もう少し山にいたいと思う気持ちがトカゲになったかな。この山行の唯一のトカゲだった。そして今度は山腹をジグザグ切って下りて行く。途中で昼飯として乾パンをかじる。粗食の連続だが、すぐ丹波の村に入り、バス停へ。紅葉狩りが多く、すごい人出。何事もなく帰宅、まずはよかった山行、奥秩父の良さを再認識。全縦走をしようとは思わなかったが、それでもいいさ。

 

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秩父