蓼科 北八ツ

蓼科・北八ツ

 

1962年6月

 

参加者   伊東 毅

 

6月20~21日

上野発(23:00)=小諸(4:05~7:30)=望月(8:20~8:35)=湯沢(9:05~9:10)~小休~唐沢昼食(11:00~11:30)~小休~二牧の丘(13:25~13:45)~二牧の谷(14:15~14:25)~寮(15:10)

 

 23:55の列車で行くつもりだったが、上野駅に9時半に着いて、あまり待っているのも、きまりが悪いので23:00のに乗る。上野を夜発つというのは初めて、どうも勝手が違う。いろいろ考える。山登りに対する考えの行き詰まり、最近はどうもよく分からなくなって、以前のような感情の高まりが感じられない。それを考えるための山行だが、山に行って考えるというのは、いつだってうまくいったためしがない。蓼科にいる時だってそうなんだから。

 近くにいたハイカーが騒々しいい音を一晩中立て続け、小諸で一緒に下りてきた時はがっかりした。望月行きのバスは大型で、一番前の運転手のとなりに座って、周りの景色を眺める。乗り心地もよく、運転手さんも車掌さんも親切で気持ちがよかった。湯沢へは乗り換え、小型のバス、窓の外には、赤紫色のじゃがいもの花、ネギ坊主、田植えは済んだところ、まだのところ、物珍しそうに見ているのは子供っぽく見られるかと思ったが、気にすることもない。そして終点ですと降ろされたところが湯沢。

 山の間の鉱泉宿を抜けて山道に入る。今度は佐久の裾野を歩いて寮に入る計画。蓼科山の北をうねうねと捲いて、二牧を通って、どんな道だろうか。空は明るいが一面曇り、蓼科山は見えるけど時々雲がかかる。八ッは見えない、浅間もかすんで、荒船もかすみの中だ。でも暑い。道は荒れていてかすかだが、しっかり続いている。途中山仕事の人に教えられ、正しい道を、まず明るい尾根の上の広い道。でもまた、細い道に入るはずで、その入り口を探しているうちに通り過ぎてしまった。灌木の斜面を登ったり、下ったり、新緑は少し青みがかかり過ぎているが、まだきれいだ。つつじもところどころに咲いている。でも幻滅なことに、この緑の葉に毛虫がいっぱい、大きいの小さいの、気持ちが悪い。道が細いので木々がかぶさって、枝葉を体でこすりながら行くので、時々服にくっついたりして、緑のトンネルにはまったく閉口した。せっかくの興味あるコースが台無しになった。時期を誤った感がある。やっとの思いで唐沢に出て、河原のボロ小屋の前で昼食。

 おにぎりときうりを食べて、また出発。去年の秋、車に乗せてもらって下った唐沢林道を横切って、また細い道。地図にある通り、古い道なのだろう、広い尾根の端、沢がいく筋も入り込んでいるところを、一つ一つ丹念に、くねくねと続いていく。ところどころに炭焼き窯がある。八丁地川への下り口を見逃して、ちょっとロスをしたが、広いトラック道がある八丁地川に着いた。そして最後の登り、これまでと変わらない林の中、ちょっと登ると牧柵が現れ、第二牧場に到着である。それにしても、こんなに遠くまで、二牧は大きい。

 気持ちのいいプロムナードを通り、小川のほとりを歩き、尾根の上の大きな原っぱに出た。この原はいい、尾根いっぱいに広がって、つつじが咲いて、黄色い小さな名前の知らない花が咲いている。ところどころに白樺の木、空が青ければもっといいだろう。尾根の上なので眺めはいい。蓼科山が見え、浅間が正面、鳴石の草原が沢を挟んで向こう側。いいところだ、この原を何と呼ぶか、二牧の谷があるから二牧の丘にしよう。

ちょっと遠いけど、また来よう。特後の時にでもまた来たい。

原の端は横せんぎ、そのほとりに、牛、馬のためか人のためか、小屋が2,3棟ある。牧柵を抜けて原を後にし、また林に入る。二牧の谷に出ると、牛が7、8頭いた。沢のほとりで休もうかと思ったが、牛が攻めてきそうになったので、あわててザックをかついで、柵の外に逃げ出した。ゆっくり休んで出発、少しポツポツ落ちてきた。明日くらいまでもつかと思ったのに意外に早く来た。でも、もう少し、六仙道を歩いて、また寮にやって来た。

今年3度目、守さんは留守だった。主寮に上がって医務室に入る。ここは狭くて落ち着くし、明るいのでいい。寒いことは寒いが、今の季節は関係ない。今度もまた一人きり、ゆっくりと足をのばす。そのうちに守さんも帰る。雨が本降りになった。俊君も峰ちゃんも帰って、また楽しい、蓼科のこの一家との生活が始まる。ここへ来ると心が和む。本当に人の好い人たち、ほんの少し遠慮があって、それでいて好意ばかりが感じられる。こたつに入って、ミケを膝にして夕食、そしてしばらく談笑。蓼科第一夜は雨の中に更けた。

 

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6月22日

 雨、沈殿、今年は雨づいている。森さんに「伊東さんが来ると雨が降る」と言われてしまった。一人で何もすることがなく、まったく退屈。落書きをしたり、日記をつけたり、気持ちが盛り上がらない。終日降り続き、主寮と炊事場を往復して暮れた。

 

6月23日

 晴れたり曇ったり、今日は一日歩き回る。おむすびをこしらえてもらって寮を出る。どこへ行ってもいいように、サブにはいろいろ詰め込んで、丸々と太っている。2晩くらいビバークしても大丈夫そうだ。宇山せんぎを流れの逆にたどる。伸びた草の上に乗った朝露で靴もズボンもしっとり濡れる。宇山せんぎの水源は、なんてことない当たり前の取入口だった。ちょっとがっかり、夢が壊される。

 せんぎが尽きて道がなくなって、でも南平に行くつもりなので、適当に草やぶを歩いていく。カラマツ林に入る。ブナ、白樺、明るくつつじが咲いて、ぜんまいの青さが感じいいプラッツがあった。歩きながらワラビを摘んで行く。林の中からポッと塩沢せんぎのほとりに出た。そこから塩沢せんぎを樽ヶ沢の方に向かう。せんぎのほとりは単調だ。トンビが1羽、頭の上でピーッと鳴いたので、口笛でピーッと返事をしてやったら、向こうもピーッと鳴く。面白いので、口笛をピー、ピー鳴らしながら歩いていくと、トンビもあとをついてきて、盛んにピーッ、ピーッとやる。楽しい気分になって、まさか仲間と間違えたわけでもないだろう。そのうち、また山のかげに飛んで行ってしまった。塩沢せんぎの水源は樽ヶ沢の上部、明るい沢だ。沢のほとりを歩く、ゼンマイがたくさん、コバイケイソウの大群落があった。もう少ししたら花が咲くかも知れない。そんな時にまた来たいものだ。沢の中ほどに人家があって、おばあさんが一人仕事をしていた。沢は広い原の中央をいく筋にも分かれて流れ、中洲のようなところに、湿原の花を咲かせている。

 弁天神のところだけ立木におおわれ、その下はまた明るくなっている。ゼンマイが多く、たくさん集めたが、どうやら食べられない種類だったようで、あとで守さんに笑われてしまった。弁天神から少し寮の方へ戻って新道を見たりして、また樽ヶ沢へ下り、反対側の斜面を登る。白樺湖~弁天神の道だ。ここは南平の中で一番平らで広いところ、八子から見ると芝生のように見えるが、笹っ原なのが残念。まだ冬枯れで茶色一色、青くなればきれいだろう。少しこの道を歩いて白樺湖には行きたくないので、また林の中を樽ヶ沢に下り、また対岸の斜面を登って林の中に入る。こんな歩き方も蓼科ならでは、楽しいものだ。塩沢せんぎに着いて腰を下ろして昼食、ほとんど休まないで歩いているので、少しくたびれた。

 昼食後、また林の中を同じように歩いて、宇山せんぎの水源に出る。そこでせんぎを寮の方にしばらく歩いて、箕輪から番所への道に入る。ここも初めての道だ。番所プロムナードも言われてみるとなかなか感じがいい。グラウンドから寮に戻ってお茶、小松川寮の管理人が来ていた。おばさんと峰ちゃんは芦田にお出かけ。

まだ落ち着いてしまうには早すぎるので、今度はせんぎの下流の方へ出かける。この春、雪の中を赤沼から歩いたところ、この前は三角点に行けなかったので今度こそ。せんぎ道をいいかげん下って、右手の山に入る。カラマツの林、つつじが咲いて、スズランが咲いて、サクラソウが咲いて、なかなかいい。だいたい見当で歩いて、この前歩いた防火帯みたいなところに出て、そこから一番高そうなところを目指して、笹やぶの中に分け入る。ザアザア、胸近くまである笹、ポッと飛び出したところに三角点があった。ちょうどそこだけ笹が切れて土が現れている。南面はブナなどの林、つつじが咲いて、陽の光も暖かく、眺めもいい。車山から追分沢、高山川方面が見える。少しのんびりして、帰りは南側に下りて土手みたいな細長い山に登って、またせんぎに戻るが、宇山も八重原も途中でトンネルに入っている。昔は山すそを流れていたのだろう、今は水が流れていない水路跡があった。今日の収穫はわらび2束くらい、すぐには食べられないけど、面白かった。

今日はニチャが来るということだったけど、ついに来なかった。まっっていたのだけど残念。夕飯はおいしかった。俊平さんは蓼科荘の店開き祝いにお呼ばれ、夜遅くなって、ごきげんで帰ってきた。蓼科最後の夜、風呂に入った。思いがけず満天の星、ちょっと嬉しかった。明日は北八ツへ、また来るさ。

 

6月24日

起床(5:20) 出発(6:50)~幻平(7:45~8:00)~ガレ小休(8:45~9:00)~将軍平(9:35~9:50)~大河原峠(10:35~11:20)~双子山(11:35)~双子池(11:55~12:15)~小休(13:00~13:15)~雨池東岸(14:00)

 

 日曜日、わざわざ早く起きてもらって申し訳なかった。スカッときれいに晴れた。でも新聞の天気図では、どうせじきに崩れるはずだ。今日いっぱいはもつと思うのだが。出発するときには、みんな起きてきて送ってくれた。もうじきこの寮舎もにぎやかになる、守さんも今は忙しい時だ。さよなら、今度も楽しかった。

 門柱から桐陰平に入る。今度も幻コースだ。一度は行かないと気が済まない。朝露に靴がしっとり濡れる。大きなザックでは、さすがに沢の中の藪は歩きにくい。幻も今度で4度目、でも夏は草が伸びすぎて、美しさが少し損なわれている。なんだかずいぶん原が狭くなったみたいだ。それでもあの昼寝のプラッツは芝生でいい感じだった。でもしゃくなことに、ここでキャンプをしたやつがいる。草を倒して、焚火までして小川の岸を汚していた。ここでキャンプしたい気持ちは解るけど、後をきれいにしていって欲しい。

 幻から焼野へはワラビの畑、すごくたくさんあったけど、今日はとっても仕方がない。水出は通過、このあたりで、あれだけ雲一つなく晴れていた空が、もくもく雲に覆われてきた。馬返しまでは意外に近い、少し登ってガレの中で一度休む。この春に道に迷ったところは、倒木などでちょっと分かりにくくなっているところだった。将軍まで来て山頂を空身で往復する積りだったが、あの好天がもう今は山頂をガスで隠し、この辺まで下りてきているので魅力を失い、やめにしてしまった。晴れていたら登って周りを眺めたいい気分になるところだが、これではめんどくさいという気持ちの方が強くなってしまう。

 将軍から大河原峠へ、ところが、こちらにちょっと入った途端に、今までの雰囲気と違う。他人の世界と言うか、蓼科山までは、いつも気安い、なじんだ感じがしているのに、ここは別の山だ。ずいぶん拒絶的というか、蓼科と他の山の違いを見せつけられたような気がした。時々倒木が現れたり、水たまりがあったり、面白くない道を下る。大河原峠の小屋は番人なし、ガスが双子山にかかったり、なくなったりだが、時々日がさしてくる。早すぎるけど昼飯、おにぎりを食べ、クラッカーのパックを3分の2食べた。草原に寝ころんでいると、親湯の方から2人上がってきた。今日は雨池に張るというので、がっかりさせられる。時間が余り過ぎなので、ゆっくり寝てればいいのに、立ち上がってしまう。双子山は明るくて気分のいい山だが、頂上ではまたガスがかかってしまった。ハイカーが大勢いたので、頂上は、ちょっと立ち止まっただけ。双子池はよく覚えていた。雄池で手や顔を洗ったが、飲料用だから、まずかったかな。小屋には入らず、素通り。

 雨池へは横岳、縞枯、茶臼なんて山を越えていくのは面倒、時間があっても予定通り捲き道コース。雄池の東側の斜面をゆるく登ったところが、落葉松峠というらしい。左に鷽の口、右に雨池へと道が分かれている。雨池へは平らな道なんだろうと思ったら、どんどん登っていく。木の根の間の道、苔がすごい、捲き道のくせに、上り下りが激しく、あてが外れた。ちょうど2ピッチ、笹の斜面の向こうに水面が見え、雨池に着いた。北八ツの中心的存在である雨池に、どうやらやって来た。感動するわけでもなく、ああ着いた、という感じだった。

 出たところは、池の北側のところで先客が大勢いたので、ビバークする場所を探して、東岸の道を行く。水量が多く、水際は歩けない。林の中を歩いていると、おじさんが3人ほど、何かを見ている。立ち止まって見ると、木の根の間から、小さな動物が顔を出したり、引っ込めたりしている。大きさは20cmくらい、背中が茶色で腹部は白、オコジョらしい。人が見ているのに、物好きなオコジョと見え、ちょこちょこと動き回っては、こちらを見ている。まったくかわいらしい、断然楽しい気分になった。高見石小屋で押したスタンプと同じだ。しばらくして見えなくなってしまったので、あきらめて、その先、池の東の明るい岸辺に出た。ちょっとした砂浜のようになっている。ここにプラッツを定めて、ザックを下ろす。ちょうど2時、さてどうするか。

 ひっくり返って昼寝をしたけど、まったくヒマだ。今日はファイヤーをやろう、ナタを持って薪を切る。太い木をどんどん持ってきて、かまどを作る。池の周りには人もいない、夕暮れがせまってきたので、火をつけて、飯盒で飯を炊く。ラジウスの灯もついてみそ汁が出来てくる。一人だとちょっと忙しい。でも飯は石油の臭いがついて、おいしくない、。みそ汁ばかり飲んだ。食後、寝床を作って、雨よけのビニールシートでシュラフをくるむ。シュラフに入った途端、バラバラっと雨が降り出した。ナイスタイミング、傘をさしてうまくいった、とほくそ笑む。ビニールシートは快調で全然濡れない。ひとしきり降ったが、また上がる。焚火は消えない、せっかく薪を集めたのだから、燃やすことにする。井桁に組んで火をつける。快調に燃える。火の傍らに腰を下ろして、一人だけのファイヤーが始まる。歌を唄って、火をみつめて、雨池の水に炎が映える。水中に積まれたケルンが浮かび上がる。一人っきりだが楽しい、蓼科の夜を思い出す。火というのは人の心を興奮させる。火は消さないで、そのままシュラフに入る。また雨が来る、でも火は燃え続ける。木の燃え落ちる音、雨が傘をたたく音、ローソクを立てて日記をつける。雨は時間をおいて、激しくやってくる。ザアーッ、ザアーッと、そのたびに火がはじける。もう水面も見えなくなって、岸に繁る木の梢が黒々と見える。一人っきりの夜、ローソクの火が風にゆれる。いい夜だ。雨が降っても全く平気、焚火はついに消えなかった。

 

6月25日

起床(5:00) 出発(7:15)~小休(8:00~8:15)~麦草峠~丸山(9:00~9:15)~高見石小屋(

9:30~10:45)~渋の湯(12:10~15:30)=茅野(17:10~18:32)=新宿(21:51)

 

 気持ちのいい朝、だんだん明るくなる。池の水面の霧も晴れ上がり、縞枯、雨池、大岳の雨池三山にミルク色の雲がかかり、朝日があたって雲のふちが金色にかがやく。青空も見え、きれいな一日の始まり、雨にぬれて池の対岸の木々が美しい。屋根のないところで寝るということは、自然にとけこめるような気持になる。昨日の焚火はまだ、くすぶって煙を上げている。よく燃えた、あんなに太かった薪が、ほとんど灰になってしまった。後片付けが簡単になる。

池の水で顔を洗って、朝食の用意。ラジウスが快調な音を出し始める。卵を持ってきたのはいいけど、しょうゆを忘れてかけられない。仕方がないのでゆで卵にしちゃった。食欲はあまりない、石油くさいご飯なんて、とても食べられない。池の北岸にテントが1張り見える。昨日遅くにやって来たのだろう、多分大河原峠で会った人たちか、昨日は雨池を独占出来たと思って喜んだが、独占じゃなかった。

パッキングもちょうどいい大きさで快調、今日は高見石から下りよう、まったくゆっくりだ。彼の天幕の人より一足先に出発、麦草峠に向かう。笹に乗った露で、膝から下がぬれる。平らな楽な道、ちょっと大きな原っぱで一度休んで麦草峠に着く。茶水池というのも割と感じのいいところだ。峠の原も気味がいい。ここをバスが通るなんて情けない。丸山に向かう。この前は白駒池を回ってきたので丸山は初めて、ずいぶん急な道を登って頂上へ。ここの登りはすごい苔でホワホワだ。山頂は展望なし、立木の中大きなやぐらが建ててある。山頂から高見石までは、ほんのひと下り。高見石は岩が積み重なってできた展望台。目の下に白駒池が見える。雨池も見える。その間は樹海の連続、ニュウも見える。西側の斜面からガスが這い上がってくる。少し肌寒いくらい、陽が出ていたら、暖まった岩の上に寝ころんでいい気分になるところだが、ひとわたり眺めまわして、下の小屋に下りる。

小屋は2棟、この前来た時は古い方の1棟しかなかった。新しい小屋はベランダなどあって、しゃれている。小屋に入ったが番の人はいなくて、“雨池に行っています、ご自由にお茶をどうぞ”の貼り紙があった。この無人サービスは、以前この小屋のことを書いた本に載っていたけど、やはり気持ちがよかった。それにしてもきれいな小屋だ。床がみがかれていて、ザックを下ろすのに気が引ける。真ん中にテーブルがあって、となりにストーブがあって、奥にはカウンターみたいなのがあって、その向こうが台所、きれいな食器がたくさん並んでいる。奥の本棚にはアルバムや落書き帳や絵はがきや本が並んで、テーブルには急須と茶碗とお菓子が置いてある。お茶をいただいて、アルバムや落書き帳を見せてもらう。この小屋を愛する人が多いことがよく分かる。小さな猫がじゃれついてくる。まったくじっとしていない、この猫も人気者だろう。小屋の主人は、まだ少し帰ってこないだろう。渋からのバスは3時半なので、時間がありすぎなのだが、天狗まで行く気にはなれない。1時間以上おじゃましていたが、落ち着かないので出ることにした。

渋までは1時間半とのこと、樹林帯を下る。ニューの靴も足に会って調子がよい。でもソックスを3枚も履かなければならないのでは、少し大きすぎるかも知れない。賽の河原は蓼科山の天狗みたいなところ、岩伝いに下りて行く。登ってくるハイカーがずいぶん多い。沢に出たが水がきれいじゃないので飲む気になれない。途中で昼飯、水筒の水を飲む。フランスパンにジャム、クラッカー、あまりおいしくなかった。食べている最中にポツポツと降り出した。それで食後の昼寝も出来ないまま。下り始めたが、出てすぐ渋の湯が見えてしまった。結局1時間もかからない、早く着きすぎた。雨は少しずつ強くなってきた。バスの時間まで外にいるのはわびしいので、温泉旅館に上がり込む。あまりきれいな恰好じゃないので、向こうもあまりきれいじゃない部屋に案内してくれた。まあ、どこでもがまん、温泉に入るのも億劫でやめ、少し昼寝して、それにしてもサービスが悪い。お茶だけ出して、100円取られて、随分損をしたみたいだ。

雨はどんどん激しくなってきた。天狗へなど行かなくてよかった。バスは各駅停車、けっこう混んでいた。窓から雨の景色を眺める。つつじが咲いて灌木と原っぱの斜面がきれいだった。町の中に入ると選挙ポスターが目につき、高校生などが乗ってきて混雑。そして顔なじみの茅野駅、そばを食べて、日記の続きを書いて、初めて急行で帰る。東京も雨だった。一人で行って、特に何をしたいと思っていたわけでもないが、何もしないで帰ってきた。それでも楽しかった。

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