オートルート9

 

5月2日(月)晴れのち曇り

大谷が一足早く、今日帰る。飛行機の便は明日3日だがチューリッヒまで行くには早朝の汽車に乗らなければならず、大変なので、今日中にチューリッヒまで移動することになった。10時半の氷河特急、駅までみんなで送りに行く。そこで例のグルノーブルのパーティーに会った。やあやあ、とお互いの健闘を祝福しあい、一緒に記念撮影、向こうは女性2人を含む5人パーティーシャモニーからほとんど同じ行程を辿ってきたので、お互い親近感を感じていたようだ。
この後残った5人は、ビール、サンドイッチを仕入れ、登山鉄道に乗ってゴルナーグラートへ。いい天気でマッターホルンはもちろん、ゴルナー氷河を挟んでモンテローザリスカム、ポリュックスとカストール、ブライトホルンが立ち並び、西側ツェルマットの谷の向こうにオーバーガーベルホルン、チナールロートホルンなど、北側にはドム、テッシュホルンからアラリンホルン、リムプフィッシュホルンなどなど、4000m級の山々が見える。贅沢な眺めである。観光客もたくさん来ているが、今はスキーシーズンが終わり、夏山シーズンまでのオフにあたっているので、山頂のホテルなど準備中、あちこちで工事などしていて、飯を食うところもない。我々は休業中のゴンドラ乗り場入口に座り込み、持ってきたビールとサンドイッチで軽い昼食。
帰りは途中のフィンデルンバッハという駅で降りて、ツェルマットまで遊歩道を歩いて戻った。途中道端に白と紫の可愛い花がたくさん咲いていたが名前は分からない。遊歩道の下の方には聖書に出てくる事蹟を書いたり祀ったりした小さな祠のようなものがたくさんあった。カトリックの札所巡りのようで面白かった。
宿に帰って休憩、夕食はキム夫妻を招待。昨日と同じバリザー・カンネ。キムは一日休養、早速奥さんを呼んでツェルマットの休日を楽しんでいたようだ。料理は各自それぞれ好みで選ぶ、伊東はミネストローネとサラダ、仔牛のレバーとロシティ。天気が下り坂で明日が心配だが、8時30分、クラインマッターホルンに登るロープウェーの駅集合の予定。

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5月3日(火)曇り時々雪
ゴンドラ駅集合(8:30)~クラインマッターホルン発(9:40)~イタリア国境の大雪原(10:25)~岩の下の斜面、天気待ち(11:05~11:20)~ブライト・ホルン(12:30)~クラインマッターホルン(13:35)=ツェルマット(14:32)

朝、曇り空、山の上の方は雲に隠れている。そのうち小雨も降ってきて、これは今日は駄目だなと思ったが、とりあえず約束のロープウェー乗り場へ行き、キムと合流。フーリーへ登るロープウェーは6人乗りの小さなテレキャビンと50人乗りくらいの大きなゴンドラの2本あって、今日は大きい方が動いている。8時半から運行開始、1台目が満員だったので2台目のゴンドラで出発、フーリーで乗り換え、途中の3000m付近は意外に晴れ間もある。中間のトロックナー・ステグまではスキーヤーで満員だったが、その上はガラガラになった。クラインマッターホルンから滑るコースがどうなっているのか、天気も悪いのでみんな下で滑るのだろうか。
クラインマッターホルン3883mは完全に雲の中、風もかなり強い。ゴンドラを降りてトンネルを抜けたところがスキー場の入口で、かつブライトホルン方面への出発点になっている。ここまで中澤も一緒に来たが、この天気ではどうにもならない、ひとり引き返した。外は風が強く、雪もまじって相当悪いのでダウンのインナーにゴアの上下、帽子もバラクラバにキャップに毛糸の正ちゃん帽の3枚重ね、フードもかぶる、手袋も2枚、ゴーグルとあるものは全て身につけた。
シールをつけて出発、広い雪原で最初はTバーリフトの鉄柱が立っているので目印があるが、それがなくなると全くの平らな雪原。ブライトホルンプラトーと言う、視界がなくホワイトアウト状態。ここでザイルを出して、5mおきにアンザイレン、氷河の上なのでヒドゥン・クレバスを警戒する。キムはGPSと地図、磁石で方向を確認している。さすがにこの状態ではいかにガイドでも素手ではどうにもならないか、ましてキムはシャモニーのガイド、ブライトホルンは13歳の時以来、17年ぶりというのだから無理もない。
次第に傾斜が増してきてブライトホルンの南側の斜面にかかったようだ。頭上の雪面に岩が露出しているのが見える。キム曰く以前は(17年前?)この岩はなかった、温暖化で雪が減って出たのだろう、ということである。4000m付近まで登って暫く天気待ちをした。キムはこれから天候が回復する、と言う。20分程待ったが余り変わらない、でも少し上空が明るくなって視界も多少きくようになってきた。本来はこの辺にスキーをデポしてアイゼンかキックステップで登るのだが、帰りにデポを発見出来なくなる恐れがあるため、スキーをザックにつけ、ツボ足で登る。例のイタリアン・スタイルである。
傾斜は急だが、雪が軟らかくキムがステップを作ってくれるので助かる。やがて稜線らしきところに出て、それを少し左に進んで行くと、急にキムがここが頂上だと握手を求めてきた。周囲は何も見えないが、この先に高いところはないようだ。まさしく4164mのブライトホルンの頂上である。今朝は8割がたあきらめていたのだが、キムの的確なリードのおかげで、初の4000m峰に立つことが出来た。でも、この天気では感激に浸っている間もなく、下降にかかる。傾斜のややゆるむところまでツボ足で下り、そこからはザイルを外し、スキーで下る。キムのトレールを忠実に追う。一度ガスが晴れてクラインマッターホルンの岩峰が見えたが、すぐまたガスに巻かれる。プラトーに出てTバーリフトの鉄柱を見た時はホッとした。あとは強風に背中を押されるように平らな雪原を滑り、無事、出発点のクラインマッターホルンのトンネルに到着した。
ガイドの力を再確認した。そもそも、この天気では我々だけなら出発しなかっただろう。キムはそんなそぶりは全く見せず、当然のようにリードして登らせてくれた。日本の山とは大違い。オーバーなようだが、氷河の山ではガイドなしでは一歩も歩けない、まして視界がきかない中ではどうしようもない。いずれにせよ、オートルート完走、初の4000m峰ブライトホルン登頂と、目標達成、大満足、感激のツアーになった。
ツェルマットに下りて、我々のホテルの前にある4ッ星ホテル・ポリュックスのテラスで祝杯を上げた。キムの奥さんも来て一緒に乾杯。いいガイドに恵まれた、フジクニが代表して満足かつ感謝していると伝える。最後に心ばかりのボーナスとして、200ユーロを包んだが、なんだかもっとあげてもいいような気分だった。小宴を終え、キムと奥さんはシャモニーへ帰って行った。
夕食は皆あまり食欲がなく、ホテルの部屋でワインと残り物の食料をつまんで済ませた