蓼科

 

1962年10月

 

参加者   伊東 毅

 

10月10~11日

 

 夜発、小諸回り、小諸を出ると雨が降り出す。また降られたかの感。入寮8時、ザックを主寮の入口に置いて、炊事場に行くと勝俣女史が来ていた。中央線で来たとか。後藤真智子さんに会う。本女の4~5人と、雨にたたられて、今日お帰り。同じく徳永女史の一行も、70回の青木と外語大の1人も帰る。大分いた勘定になるが、ガラッといなくなった。炊事場で朝飯をもらって暖まっているところへ、現役1年3組の一行が到着、大分濡れている。今朝発って来るのかと思ったら、勝俣女史と同じ列車だったとか。白樺から寮までどこを歩いたのやら、どうもおかしなところを通ってきたらしい。先に入寮していた松井さんと1年生の世話係と相成った。主寮はまだ人が多いので、ひとまず2寮に入れ、囲炉裏を燃やして濡れ物を乾かせ、朝食を摂らせる。第2陣は松原さんに率いられて昼頃入るだろう。松井さんは明日まで、中村さんも来ている、常盤も入る予定。どうやら夏の6期の再現のようだ。退寮する人たちが出て行ったので、2寮の1年生も主寮に入る。昼過ぎ常盤入寮、残りの1年は松原さん一人で連れてくることになったらしい。雨の中、一行を門柱まで迎える。1年4人と松原さん、同時に67回の石、杉の両氏も。ギターを持ち込んで駒場祭に練習とか、これはとにかく賑やかになりそうだ。小谷さんも入寮。雨でせんぎの水が濁る一方、これまでの好天続きで水道が枯れて、食器洗いも不自由だ。

 

10月12日

 

 朝はまだすっきりしない。松井さんが朝早く帰って行った。気がついたけど、すぐ沈没、9時過ぎになって起き出す。いい天気になってきたので、今日は出かける。1年生を引き連れて、幻~二牧の周遊コース。石さんたちを除いて、他のみんなも一緒に行くことになる。唐沢の草露が気になったが、行ってみると大したことはなかった。幻はやはりいい、去年より草が多い感じだ。あの高座は素晴らしいモヘヤのじゅうたん。嬉しくなってみんなごきげん。奥の白樺林も見に行く。いい天気で空の色が美しい。ここの白樺の純林は蓼科一かも知れない。キャラメルやガムを口に入れて、次は御泉水へ、途中ちょっとした湿田があった。この前は雪の原で、ただの原っぱぐらいに思っていたが、これはまた一風変わって面白い。御泉水では止まらず、夢へ行ってみた。予想はしていたが無残な姿だった。やはり悲しい、憤りをどうしてよいのやら。

 夢の続きで昼食、このあたりからガスが湧きだす。竜の三角点、つつじ尾根を下って二牧へ。途中でもう一つ、尾根の上に広い原を発見する。しかし下の方が段違いにきれいだ。雑木林に区切られて、せんぎを渡って、林を出ると、素晴らしい天地が開けていた。小諸の方は光がさして明るい、こちらには光がないが、この広い原はいい。ゲームして果物を食べて、ご機嫌の時間を過ごす。帰りは平和の谷を通って、鍵引石から赤沼に行く。ここも工事が進んでいる。赤沼のしたの原っぱを行き、夕暮れが迫ってきたので、みんなは六仙道を行かせ、一人で境川を下る。

 寮に着くと、もう灯りがついていた。今日は面白かった。今回はもう歩き回るのも終わり、今晩は徹夜、カロムにトランプ、歌、ゲーム、一睡もせず、朝まで1年生につきあう。

 

10月13日

 今日は1年生が帰る、常盤が付き添い、弁天神を回って行く。残りは見送り、白樺湖まで行く。池の平にいると後藤友紀子さんがやってきて、常盤たちと合流。池の平から雷ホテルまでバスに乗って、1年生を見送る。みんなが行ってしまって、なんだか淋しくなって、このまま帰るのもつまらないので、ボートに乗ってみた。ボートに乗ってみると白樺湖は意外に広い。一人で一生懸命こいで腕がくたびれた。帰りは歩き、間道を通ったが、つっかけで来たのでたまらない。ニチャは今日も来ない、デモに行ったとか。カロムで小谷さんに惜敗、前日の徹夜で、今晩は眠い。かんたんに沈没。

 明日は北八ツ、稲子に行く予定だが、このままではニチャにも会えないし、ファイトもあまりないので、どうするか。雨が降ればいいと思う。少しは自分に申し訳が立つ。

今日は67回水田、並びに68回山田、慈恵医大南氏が車で入寮。

 

10月14日

 朝起きたら雨、ホッとした。もう出かけなくてすむ、ちょっと心残りだけど。朝ご飯を食べていたら、ニチャがやってきた。有さんもオミチも船曳さんの姉妹も、姉さんの方はご主人と。年寄りが増えた。雨があがって年寄り連はお出かけ、68回山田さん、南さんと便乗の松原さんはブルーバードで小諸回り帰京。こちらは一日沈殿、カロムとトランプ。明日は帰らなければならないのが残念。夜、石、杉、水田三氏のギター演奏会がある。これも楽しい。ニチャと有さん、オミチは二寮に泊まるので、お土産を持って訪問、石さんたちに勝俣女史も加わって、酒宴となる。趣の変わった蓼科の夜、妙に心が空回りするような、落ち着かない気分だった。主寮に帰ると、もうみんな寝静まっていた。シュラフにもぐりこんでおとなしく眠る。

 

10月15日

 いい天気ではないが、とにかく晴れているといった天気。今日はザイルを持って境川へ行こう。他のみんなはせんぎから赤沼の方へ行った。皆を見送ってから出かける。おつとめ岩より大きな、境川バットレス命名した岩。まず正面右のクラック、多少くたびれるが、案外すんなりと登れた。この前より上達しているのだろう。続いて正面のスラブをアタックするが、やはり取り付きが悪くて、どうもいけない。仕方がないので、岩の上のカラマツをピンにしてアプザイレンで降り、そのザイルを使って吊り上げで、取り付きの垂壁を突破した。後は難なく登って、ひどい人工登攀の結果ではあるが初登攀である。

 正面はもう手の出るところはないので、右に回ったが、オーバーハング帯の突破は至難。アブミがあるので、ハーケンさえ打てればだが、右端に気分のよくないリスを見つけて、ハーケンを打ってみる。浅い、全然効かない。それでも何とかハングの天井のリスに1本だけ打って、アブミをかけたが1つだけでは、このハングは無理。まあ、それでもと、アブミに乗ってみたが、やはり上には出られない。そうこうするうちに、目の前で、そのハーケンがズズッと動いて、「こいつはいかん」と思った瞬間、ドシンと地面に落下、アッと思う間もなかった。高さは1mぐらいで、下が腐葉土で軟らかかったので、何事もなかったが、何ともいやな気分だった。

 ハーケンとアブミの勉強にはなったが、もうとても駄目なのでまた正面に戻ってクラックを登る。ところが今度は途中でシュリンク状態になってしまい、シニシニになった。悪いは悪いが、登れることは間違いない。しかし身体が固くなって、まったく恐ろしかった。途中では何も考えないことだ。

 寮に引き上げると、もう皆は帰っていた。有さんがサンショウウオを焼いて食べている。気持ちが悪い。午後、オミチと石さん、杉さん、後藤さんと一緒に帰る。白樺湖で真っ赤な紅葉を見た。蓼科も47泊、50泊は正月になるだろう。それまでは行けない。急行で帰る、混んでいた。

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