中央アルプス

 

 

1962年8月13日~16日

 

参加者   伊東 毅

 

主装備 キスリング2尺4寸、ツエルト、ビニールシート、傘、シュラフ、夏用衣類、

    ラジウス、石油、アルコール、エッセン、p.f.

 

費用  755円(交通費のみ)

 

8月13日

 

蓼科=茅野=辰野=駒ヶ根=伊勢滝~濃ヶ池(時間不明)

 

 蓼科特別後期から、計画していた中アに。でも、どうも気分が盛り上がらない。やらなければならない仕事を早く終えてしまいたいという気持ちだ。Geldも考えてみたら大分乏しくなっている。茅野では列車にすぐ接続、座れたが駅5つだから大したことはない。辰野で食料を買い入れ、飯田線もすいていた。駒ヶ根駅でバスの時間まで待たされる。日に2本しかない、バス代も高い、荷物代と合わせて215円とられた。1時間、眠っているうちに伊勢滝終点、靴紐を締めなおして出発。黒川の川筋は荒れていて汚らしい。伐採も入っている。ゆっくりしたペース。歩きだしはゆっくりした方がいい。それでも途中で先に行ったパーティーを抜いた。

 濃ヶ池まで約3ピッチ。濃ヶ池は水が少なく、予想したほどいいところじゃなかった。一応カール状になって、ハイ松と花崗岩の山に囲まれている。南側の草の上に寝ることにして炊事を始める。飯はどうもうまく炊けなかった。おかずも暗くなってきてしまって、妙ちきりんなものになってしまった。到着がちょっと遅すぎた。食事のあと、例のごとく、傘とツエルト、ビニールでうまくやろうとしたが、風が強くビニールが飛ばされてしまう。ローソクを立てて書き物をしたかったが、やはりうまくいかない。雨池と違って、カールの底は風が強い、風よけのフードを研究する必要がある。雨は来ない、面倒くさいので、ツエルトをかぶって眠ってしまった。

 

8月14日

 

濃ヶ池~宮田小屋~宝剣岳~島田娘~檜尾岳~熊沢山~木曽殿越小屋

 

 暗いうちから歩き出す人が多い。上の稜線をラテルネの行列が行く。時計がないので何時ごろか、さっぱり分からない。明るくならなくては仕事が出来んと眠っている。それでもようやく東の空が明るくなってきた。風が強く、シュラフの外は寒いので出る気にならない。もっと暖かくなってからと、太陽が昇るまで待っている。今日はどのくらいかかるのか、よく分からないが、まあ、どこに泊まってもいいので気が楽だ。昨日の残り飯を食うが、うまくない。まあ、とにかく出かけることにする。駒に登りたいのだが、どうもはっきりしない。地図はあてにならないし、道がどうなっているのか、正面の斜面のガレみたいなところを登る手もあるらしいが、、ちょっと嫌な感じだ。とりあえず太い道を行くことにする。この道は駒をまいているらしい。途中から登る道がないかと思って歩いて行くが、どうも調子が悪い。とうとう駒飼の池に出てしまった。池にはテントが3,4張あった。そして宝剣の手前の宮田小屋の前に出る。ここからザックを置いて駒を往復してくるかとも思ったが、あまり登りたい気持ちにならない、最初からファイトがなくて、やめにしてしまった。

 それで南下、宝剣はどんな山かと思ったが、何のことはない、岩がちょっとばかりあるだけ、高さが5~60m、まるで面白くない。がっかりさせられた。まったく小さいので、登ってそのまま下りてしまった。下に千畳敷のカールが見えるが、たいしたことはない、名前からさぞいいところだろうと思ったが、期待外れだった。右手に見える三ノ沢岳は立派できれいだった。行く手の空木岳は時々ガスから顔を出す。まあ、後は空木だけ、縦走を続ける。島田娘のあたりの稜線はハイ松がよく、気持ちがいい。ひと下りの後、檜尾にかかる。ここで昼飯らしきものを食べた。朝飯が不十分なので腹が減ってしかたがない。

 縦走者は結構多い、さすがに超特ザックはいないが、足の速さは負けない。夏山であれだけ訓練したのだから当然だろう。檜尾の山頂東下に小屋があるが、まあ今日は木曽殿越まで行こう。檜尾からの稜線にはエーデルワイスがたくさん咲いていた。初めて見たが、ここは特に多いそうだ。無数にあるが、目の覚めるほどきれいという花でもない。熊沢山の頂上には大きな石が面白い形に立っている。夏の雲を背景にちょっとしたスナップ。だんだんガスが濃くなってきて、眺望はなし、ただ歩く。東川岳を越えると後は下り、ガスの中に小屋が見えた。どうやら、少し降ってきた。少し急いで小屋に入った途端、バラバラっとくる。うまくいった。小屋は小さく暗く、汚い。でも風は来ないし、雨も心配ない。まだ時間は早い、2時10分前ごろだろうか、2段になった上段に陣取る。水場は木曽側に下り3分。そのうちに雨に降られた人たちが小屋に駆け込んで来る。雷までまじえて強い降り、まだ先に行くはずの人まで、ここでストップしたので、小さな小屋がいっぱいになってしまった。最初に入っていたから上席にいられたが、後から来た人たちはかわいそうだった。方々でコンロを燃やすので暑くて困る。飯はまずい、おつゆのみで腹を満たした。日記をつけて眠るが、暑いのと騒がしいのに参った。

 

8月15日

 

木曽殿越~空木岳~池山小屋

 

 今日はもう面倒臭くなって、その上、越百からの下りが良くないらしいので、空木で池山に下りることに決定。それでも明日までは山の中にいる積りなので、ゆっくりだ。他の人たちは起きだしてガタガタやっているが、こちらは依然シュラフの中。外はいい天気、いつも朝のうちはいい。ラーメンとクラッカーの朝食。パッキングして一番最後に出発。空木の登りは300mということだったが、それほどのことはなかった。頂上で昼寝、日はさしているがまた雲が多くなってきた。南駒は面白そうに見えたが、行く気は起きない、また来る日があるかどうか。山頂で一緒になった人と池山尾根を下る。空木小屋はいいところにある。泊まってみたかったが、池山小屋まで行くことにする。

 駒石まではハイ松と花崗岩の気持ちのいいゆるやかな稜線、その下から樹林帯。下りも急になって、暑くなってきた。朝飯が簡単だったので、腹がすいてしかたがない。途中でカリントを食べる。池山小屋まで、もう少しのところで、今日もまた夕立がやってくる。ちょうど2時ごろ、急いで小屋まで。それでも樹林帯なので、雨の被害は小さかった。小屋は結構大きいが、住み心地はよろしくない。ガランとしてまとまりがなく、戸や窓が開きっぱなし。水場はすぐそばで、湯を沸かしたり、ラーメンを作ったり、とにかく今日はここで泊るので、ゆっくり落ち着く。ここまで同行してきた2人は今日中に下る。バス停まで1ピッチだけど、下っても、どうせステーション・ビバークをしなければ、蓼科に入れないので、ここにいた方がいい。

 小屋の隅に新聞紙やビニールを敷いてシュラフを広げる。今日は1人きりのはず、もう最近では1人きりで眠るのも慣れた。夕方まで横になって、暑中見舞いなどを書いて、のんびりと過ごす。小屋の環境も中もあまりよくはないが、1人でのんびり出来るのが嬉しい。夕飯は水加減も慎重に、じっくり腰を落ち着けて炊いたので、うまく出来た。高度は1500mくらいなので、そのためもあるだろう。おかずもたっぷりあって満足した。今夜は満月ちょっと前の月、外も明るい。

 

8月16日

 

池山小屋~菅の台=駒ヶ根=茅野=蓼科

 

 時計がないので、いつ起きていいのかさっぱり、バスの時間は分かっているのだが、こっちが何時に起きて何時に出るのか分からないので、すべてカン。飯を食って出発、麓は間近、南アがよく見える。南は大きい、中アなんてスケールが小さくて、コンプレックスを感じる。八ッも見える、蓼科山も見える。他の山から見ると懐かしい。麓の寺から朝の鐘が響いてくる。ひと汗かいて朝の菅の台貯水池、駒ヶ根鉱泉前、バス停でひと休み。時間のカンは当たっていた。ところが、バスに乗った途端、財布をバス停に忘れてきたことに気がつく。あわてて下りて逆戻り、財布はあったけど、山靴のまま1000mほどマラソン、おまけにバスには行ってしまわれるし、がっくり。でも丁度来た消防自動車が親切に便乗させてくれた。助かった。赤い自動車に乗って赤穂へ、駒ヶ根駅にまた戻ってきた。

 4日使った山歩き、一人旅の自信はついた。どこでも泊まれるというのがいい。それにしても少々怠慢な山登りだったな。

 

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