穂高涸沢 新人訓練合宿

 

1962年6月

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参加者   

L河野(OB)中村岳(OB)西谷(OB)

柳沢素(4年)森田(3年)

藤原、賀来、井上浩、鹿野(2年)  

大谷、三枝、木邨、伊東(1年)

 

主装備 共 6人天2、4人天1、ラジウス6、灯油、登攀用具

    個 キスリング、シュラフ、マット、夏山衣類、ヤッケ、サブ、ピオレ、他

 

費用  エッセン・装備  750円

    当日      1778円

 

6月1~2日

新宿発(22:35)=上高地(8:40~8:50)=小梨平(9:00~9:30)~明神養魚場(10:15~10:30)~小休2回~横尾(13:00~13:25)~丸木橋(14:10~14:40)~涸沢(16:40)

 

 6月1日23:35発の準急、ルームから直行する。井上氏のみ後発。1年生4人で1ボックスを占める。シートを敷いて3等寝台、快適に眠れた。切符を島々まで買っておいたのに、松本からバスだなんて大ショック。上高地までのバス代の高いこと。、おまけにザック代が130円、人間と合わせて290円、これも誤算。梓川に沿って山に入って行く、だんだん涼しくなってくる。釜トンネルを抜けると、雪が出たり、周りの景色が気持ちよくなって、そして焼岳が見える。岩のガリガリした焼岳は、予想以上にきれいだった。空も明るくなって、そして穂高が見参。西穂、奥穂、吊尾根が岳沢を抱え込んで、なるほど、さすがは穂高。黒い岩と白い雪、今がいちばんきれいな時、期待に違わず、立派な姿で嬉しかった。

 大正池を抜け、上高地でバスを降りる。少し歩いて小梨平へ、1日早く入った岳沢パーティーがいるはず。飯を食べていると、高井、中村OB、森田がやって来る。岳沢パーティーは昨日は白沢渡に幕営したそうで、今日岳沢に向かっているそうだ。預かった米を高井に渡す。中村、森田は涸沢パーティーに合流、小梨から1ピッチ歩いて明神の養魚場、ここで中村、森田に、荷物を少し分け持ってもらう。ザイル1本抜かれたので嬉しくて、ザックの背負い具合もいいし、これなら絶対に大丈夫という自信が湧く。共装が20kg、個装が15kgというところだろう、少し暑いけど、大丈夫と思うと、ずいぶん気が楽になった。

 穂刈新道を行く。左に時々、明神の岩が見える。1ピッチ歩いて下又白の河原、水がおいしい。この辺から奥又の岩場が見え始める。奥又の出合では、前穂から北尾根の又白側、岩場の城がよく見える。もっと見たかったけど、歩き続ける。1回休んで横尾に着く。危なっかしい木の橋を渡ったところで昼食。テントが2~3あり、明るくてきれいなところ、屏風がすぐ目の前でなかなか凄い。

 このへんから少し登りになるということで、気を引き締める。横尾谷の左岸を、やはり、だらだら登り、あまり辛くない。涸沢に来た1年生は、みな強そうなのばかりで、みんな同じように元気だ。丸木橋を渡って、少し急な登りになるが、まだまだ平気。涸沢に入ると水が凍っているのか流れていない、雪がたくさん出てくる。もう穂高の稜線も見える。横尾尾根が印象的。雪の上を歩くようになると、池の平の石積みが見え出す。見えてからが延々長い、なかなか近づかない。でも別に辛くなかったから、それほどいやでもなかったが、見えているのに近づかないというのは、嫌味である。最後は1ピッチ半ばかり歩いて、ようやく池の平に着く。着いた時は少しポツポツと雨が落ちてきたようだった。

 体操して幕営にかかる。雪の上はずいぶん汚れている。ちょっとがっかりした。黄色いテントが3つ並んで落ち着く。他には3つか4つくらいパーティーが入っている。スキーをやっているのもいたが、雪が汚いので、あまり魅力的ではなかった。晩飯はすき焼き、肉が豊富でうまい。岳沢パーティーの肉は腐ってしまったそうで、何とも気の毒。入ったテントは6人天で中村、柳沢、賀来と4人、後から井上が入るはずになっている。雨が降ってきたけど、フライがあるので気が楽だが、明日はどうなるか。天気図は調子よくない。明日の起床は4時半、早めにシュラフに入る。今日は辛いかとおもったけど、意外に楽にやって来れて嬉しかった。ようやく北アにやってきた。何度か機会があったが、いつも実現しなかった。それがあっけなく実現して、なんだか残念なような気がしたが、どういう心理かな。

 

6月3日

 4:30起床、外は雨、一応、みんな起きて、飯を作る。沈殿でのんびりは魅力だが、行動できないのは残念。でも、皆の様子では沈殿らしい。殊にとなりのテントは物音がしない。眠ってるのかな。天気予報では当分、調子が悪い。飯を食ってお茶を飲んだら、またシュラフにもぐりこむ。日記をつけたり、少し話をしたり、まったく退屈。

 となりのテントは10時ごろ起きたらしく、ラジウスの音がする。こちらではもう,

昼食にかかっているのに。今日入るはずの井上氏も、この雨でどうしているか。4時ごろ2人迎えに出たが、2人だけまた戻ってきた。雨の中、武蔵工業大のパーティーが入る。大分激しい雨、相当しごかれていた。

 屏風の頭が見えたり隠れたり、一日降り続いて、その日は暮れた。昼間からラジウスをたくので、石油が足りなくなるのではと心配。雨の日は気持ちも盛り上がらない。運動しないので飯もあまり入らない。4人天が洪水で、三枝を収容。

 

6月4日

 今日もまた雨、4時半起床、昨日とまったく同じ。三枝は寒かったと言っていた。他のテントから一人二人訪問がある。午前中、井上氏が上がってきた。上高地線が切れてバス道を延々歩いたそうだ。昨日は横尾に泊まったとか、ご苦労様でした。夕方になって、少し明るくなって、明日はと思わせる。今日は三枝と井上氏が入って、テントが狭くなる。今日はあまりよく眠れなかった。マットの空気が抜けるので、背中が冷たい。シュラフの足の方がグッショリ濡れた。

 

6月5日

 晴れた、4時起床。今日は雪上訓練。昨日落ちた雪崩が長々とデブリを見せている。体操して出発、ものすごいスピードで走り出す。沈殿続きで運動不足とは言え、ひどくまた張り切ったものだ。いいかげん息が切れてきたころ、上級生もOBも同様で、ちょっとストップ。トップの人に聞いたら、走り出したら、もう引っ込みがつかなくなってしまったのだそうだ。大体5峯あたりを目指して登る。キックステップで登って、いろいろ雪の斜面を歩き回る。初めのうちは慣れないせいで不安で、どうも調子が悪い。ピッケルストップの練習もする。雪の上を寝て滑るんだから、びっしょり濡れる。シャツの中まで雪が入って気分が悪い。あまり楽しいものではない。それでもまあ、感じくらいは分かったようだ。

 昼食を食べに4峯の下の岩近くまで登る。柳沢、藤原、鹿野の3人は北尾根の偵察に向かった。昼食後、雪の斜面を大まきして奥穂沢に向かい、それから白出のコルへ。日が照って眩しい、サングラスを半分くらいかけた。2ピッチでコルに着く。奥穂小屋は営業していない。靴の中に水が入ってびっしょり、気持ちが悪い。ガラガラの岩稜を奥穂へ。浮石ばかりで気を遣う。簡単に奥穂3190mの頂きに着いた。いい眺め、槍はさすがに立派だ。北アというのは山が多い、雪を冠った山が、はるか遠くまで続いている。岳沢にTUSACのテントが見える。ジャンは本当に面白い格好をしている。ここで、また昼食、、気持ちがいい。桃カンが回ってくる。こういうのだけは1年生に回りがいい。今度の山はサブサブを持ってこなかったので淋しい。ボッカがつらいと思って持ってこなかったのだが、あの程度なら持ってくればよかった。

 北尾根に行ったパーティーはまだ前穂に着いていないらしい。下りは浮石が多いので嫌だろうと思ったが、それほどではなかった。コルからグリセードで下る。ピッケルのシャフトが皆のより短いので、グリセードの時はちょっと辛い。慣れないのでくたびれる。雪がグサグサでよく滑れない。それでも下りは速い。下の傾斜のゆるいところは歩いたが、瞬く間にテントに帰り着いた。大谷が用事があるので下る。西谷氏がついて行った。親爺さんが選挙に出るのだそうで、大変なこと。雨ばかり降って一日しか歩けなかったのが気の毒だった。

 その後はテントの引っ越し。雪の下が凍っているので、平らにするのに手間がかかる。ピッケルや小屋のツルハシで氷を砕く。一大土木工事のあと、テントを張って、ようやく完了。4人天は調子が悪いので、6人天2つだけ。食料は終わりになるほど、悪くなるという評判。天気はもう少し持ちそう。今日はよく動いたはずだけど、よく眠れない。ピッケルストップが頭に浮かんだりして落ち着かない。明日は北尾根である。嬉しいような、変な気持ちだ。でもがんばりましょう。

 

6月6日

 4時起床。柳沢、森田氏は滝谷第5尾根、中村、藤原、鹿野氏は第2尾根へ。残り7人が北尾根。今日は朝からアイゼンをつける。5,6のコルへ、最大傾斜線に近く登る。足首が痛いけど我慢して登る。それでも、いいかげん登っていくうちに、痛みも感じないようになって、大分楽になる。頑張ったので35分くらいでコルニ着いた。まさか1ピッチで登れるとは思わなかったので驚いた。アイゼンを外し、ザイルを出し、コンテで登ることにする。ゼルプストを使うが一重なので、あまり感じよくない。

 伊東と三枝と西谷氏、賀来、井上、木邨がもう一つ、河野氏はザイルなし。5峯の登りは大したことなし、1か所、雪のあるところでひっかかっていたが、どうも少しもたついている感じだったので、我々は岩稜を辿って、先に出る。5峯の上から奥又の谷がよく見える。池もライトブルーに、少し白っぽい色だ。4峯の登りも、別に怖いところもない。浮石が多いのでザイルでひっかけないように気を遣う。それでも岩尾根をリッジ通しに登っていくというのは気持ちがいい。北穂がきれいに見える。3,4のコルで昼食、風が強くて少し寒い。3峯の登りは、さすがにちょっと面白そうな感じだ。三峰フェースも上の方は、大分ガラガラした感じ。奥又側はあまり岩壁のところは見えず、草付きとブッシュが多い感じだ。

 3峯の登り、取り付いて少し登ったところ、岩の間のくぼんだところで、ずいぶん引っかかる。前から打ってあるハーケンにビナをかけ、ザイルを張って、スライディングで登っていく。自分が登った時には、それほど難しいとは思えなかったけれど、まあ、ちょっと落ちれば危ないかも知れない。その上は、よく写真に載っているチムニーとトンネル。チムニーは雪がつまっていて、ステップが切ってある。ひどく狭い、トンネルをくぐって、次は奥又側へ、ちょっと感じのいいところを登る。スタッカットだが、ジッヘルが三枝ではあまり安心は出来ない。そこを抜けると、奥又側がよく見える。これでもう悪いところはない、2峯なんてあるかなきがごときもの、下りもそれほどではない。前穂1峯には12:00着、陽の光を浴びていい気持ちになる。

 昼飯を食べて、ザイルをしまっていると、奥穂の方から、ヨーデルが聞こえてくる。岳沢パーティーの牧野内氏らしい。後で聞くとジャンの上からだそうだ。一応、北尾根をやって気分はよかった。あまり大したことはなかったが、沢登りよりも、やはり気持ちがいい。前穂からガラガラの道を下って吊尾根へ。吊尾根の道はあまりよいとは言えない。たくさんの人が通るから、もっといい道になっているのかと思ったが。西穂の稜線が綺麗によく見える。岳沢を見下ろしても複雑でよく分からない。奥穂の登りも大したことなく、またまた昨日の頂上に着く。乗鞍というのは大きな山だ。南アの方もよく見えるが、どれが北岳、どれが仙丈、駒かよく分からない。蓼科が見える、ずいぶん遠い。早く行きたい、こんな岩の上よりも草原の方が気持ちいいだろう。

 下りは昨日と同じ、コルからグリセード、今日の方が滑りが悪い。西谷氏のピオレのシャフトが折れる。グリセードもこんなのではあまり面白くない。あまり速く滑ると、止めるのが怖いし、スピードをゆるめると止まってしまうし、くたびれて面倒だから、下の方は歩いてしまう。テントには5尾根のパーティーが帰っていた。2尾根のパーティーはゴルジュの下の雪渓を下りている。体操が終わるころ、テントに着いた。紅茶を淹れてくれた。今日は面白かった。天気も良くて、大分雪に焼けた。みんな赤い顔をしている。

 夕食後、鉄門の遭難パトロールの村上氏がやって来る。上高地から奥穂を越えて来たそうで、ピッケルが見つかったとか。今度は出るかも知れないとということで大変である。明日は岳沢に入るが、悪いところらしいので、河野、中村氏が応援に出ることになる。まったくご苦労様。明日は1年生は下山、上級生は岩登り。徳本越えを木邨と2人でやることにする。上高地線のバス代の高さは、徳本越えのバイトに匹敵する。

 

6月7日

涸沢発(05:30)~丸木橋(06:05~06:20)~横尾(07:10~07:25)~徳沢(08:10~08:30)~白沢渡(09:10~09:25)~白沢・昼食(09:45~10:05)~小休(10:55~11:05)~徳本峠(11:15~12:00)~岩魚止(13:10~13:50)~取入口(15:20~16:15)~小休(17:05~17:15)~島々谷橋(17:45~17:50)~島々駅(18:30~18:42)=松本(19:14~20:22)=茅野(22:33)

 

 3時半起床、曇りでいやな感じ。それぞれに分かれて出発。下山する1年生3人、出発の遅い河野、中村OBが送ってくれる。下りはずいぶん早い。登り2ピッチのところ、35分で下る。丸木橋で先輩方と別れる。あとは1年生だけの、のんびりパーティー。横尾までは登りと同じ道、橋を渡って横尾小屋の前に出る。ずいぶん立派な小屋だ。梓川左岸の道を行く。奥又の谷がすごくSchon、4峯も東壁もよく見える。あそこに向かっているパーティーもあるはず、昨日登った北尾根もよく見える。この辺は緑が多くていい。徳沢まで1ピッチ、徳沢は予想外にいいところだ。緑の草原が気持ちいい。

  時間があるからゆっくりする。徳沢から同じような道、途中から、ついに雨が来た。ポツリ、ポツリといやな感じ。徳本を越えるまでは降ってほしくなかったが、やってきてしまった。白沢渡に着いた時には、すでに相当ふってきてしまって、これから弱まる可能性はなかった。木邨は中止してバスで帰ろうという。こちらは雨が降ったところで、別に危険ということではないし、気分が少し悪いくらいのものだから、それはその気で行けば平気だと、越える方。一人でも越えたいくらいだったが、一人では後で文句をつけられると思って、木邨を誘う。結局、木邨が折れてくれて、徳本越えに踏み切る。三枝は1人上高地へ。

 白沢に入って少し歩くと雨が強くなってくる。がけ崩れの地点を過ぎたところで昼食。雨具を出して完全装備、ミルクパンを1袋食べて出発。徐々に登りが急になり、雨脚が強まる。峠の方はガスがかかって見えない。西穂や明神も隠れた。ビニールを全身にまとっているので、体温の逃げ場がなく汗、汗をかいても発散しないので、ものすごく暑い。まったく、これには応えた。一息で峠に着けると思ったが、もう少しのところで休みを入れた。雨は本格的で、この分では岩登りも中止しているだろう。

 峠の小屋には、先着のパーティーが火を燃やしていた。火にあたったり、ピンチフードをサブサブに転向させて食べたり、いいかげん休んで、また雨の中を出る。下りはジグザグで相当に急だ、登りはつらいかも知れない。岩魚留まで1ピッチで行けると思ったが、相当あった。岩魚留の小屋に入って昼食、クラッカー1袋、毎日同じものばかりだが、意外と飽きない。岩魚留から延々2ピッチ、続けて歩く、雨が少し弱まる。増水した島々谷はなかなか綺麗だ。足の裏が痛くなってきたが、意識しないようにして、ただ歩く。

 急に人里のようなところに出たと思ったら、発電所の取水口だった。宿泊所があり、小屋も2~3軒あって、電気までついていたけど、人はいないようだった。軒を借りて休み、チョコレートやはちみつを食べる。相当休んで、また出発。木邨の右腕がしびれて、上がらなくなってしまう。2ピッチも続けて歩いたせいかな。こちらも足が痛くて、しかたがないが、他のことを考えて気を紛らすようにして、ただ機械的に足を出す。道がよくなってくる。小さな発電所だが、道の補修などは相当大がかりだ。1回休んで島々の部落に着く。雨に打たれながら、道端の丸太の上に腰を下ろす。ずいぶん消耗した。バス道を島々駅へ、足が痛くて本当にトボトボ、駅に着くとホッとした。

 電車はすぐ来た。ぐしょぐしょの靴、シャツもチョッキも濡れた。電車の中でようかん等食べる。松本から茅野行きがあったが、木邨につきあって、後の新宿行きにする。待合室でそばを食べて、少し物足りずに何かないかと考えているところへ、岳沢パーティーの高井、牧野内、井上、池戸の4人がやってくる。何か食いに行こうというので、一緒に外に出る。1年生はまっすぐ帰ったそうだ。かつ丼を食べたら節約したバス代の半分がとんでしまった。でも美味かった。

 鈍行で上級生の一足先に帰る。列車の中で濡れた着物を替え、足を出してみると、豆のようなものが出来ていた。足は相当傷んで、ちょっと回復に時間がかかりそう。茅野で下りて待合室に入る。木邨は1人で東京へ。待合室の腰掛にマットを敷いて、シュラフの中にもぐり込む。雨はまだ降っている。シュラフは暖かい、少し湿っていたけど。明日は蓼科へ、晴れて欲しい。