八ヶ岳赤岳天狗尾根

 


八ヶ岳赤岳天狗尾根

 

1963年2月

 

参加者   中村岳生(OB)  牧野内昭武(L)  伊東 毅

 

装備    冬用4人天、ツエルト1、ザイル テトロン1、補助ザイル30m1、

      アイスハーケン3、マウエルハーケン3・3、カラビナ8、スコップ1、 

      ラジウス1

 

2月7日  新宿発(23:45)

 

2月8日 曇りのち雪 清里~美し森

 清里には雪なし、ハイヤーを頼んで美し森まで入る。そこより20分ほど歩いてキャンプ場、天幕設営終了7:00ごろ、ゆっくりお茶を沸かし、朝食。9:00ごろ赤岳沢出合まで偵察に出発。広い裾野を歩いて川俣川に入る。大分雪が出てきたが、踏み跡があったので楽に歩けた。11:30赤岳沢出合、積雪50㎝くらい、この頃より雪が激しく降り出し、天幕に帰り着く頃には20㎝くらい積もっていた。夜通しひどい雪。

 

2月9日 雪

 2:00起きたが、雪が激しく降っているため、またすぐ眠る。終日降ったりやんだり。牧野内、岳氏は20分くらいトレールをつけに行ったが、ラッセルは膝まであった。明日を期して6:00に就寝。

 

2月10日 快晴

起床(1:45) 出発(3:45)~赤岳沢出合(7:45)~ガリー取り付き(8:15)~尾根上(9:15)~森林限界(14:00)~大天狗下(17:00) ビバーク(18:00) 

    満天の星、おまけに満月で非常に明るい。アイゼン、ピオレ、みなペタペタくっつく、寒い。ワッパをつけて第一歩から膝までのラッセル。交代しながら進むが、まったく先が思いやられる。川俣川に入る頃には、もう日が出かかり、ラッセルは腿までとなる。出合はるか手前で夜が明ける。赤岳沢に入る頃には、もう日が当たってきて、雪崩が怖いので、出合から500mくらいのガリーに取り付く。しかし、あまりに雪の状態が不安定なので、すぐ右手の枝尾根に逃げた。たちまち胸までのラッセル、ほんの100mばかり登るのに1時間近くかかってしまった。

   尾根の上に出てからは、いくらかラッセルも少なくなって腰くらいだが、倒木が多く、あまり進まない。時々木の間から大天狗が見えるが、いつまでたっても近くならない、遠く高い。もがきにもがいて、やっと森林限界に出た時は、ともかくホッとした。ここでワッパをアイゼンに履きかえる。天気がよいのはありがたいが、少し風が出てきた。完全装備でもじっとしていると、ぞくぞくする。岩と雪のミックスの稜線をしばらく行くと、帯状の岩壁にぶつかった。正面を登ることにする。麻とテトロンのドッペルで牧野内が取り付き、アイスハーケンを2本使って乗り越した。そこからリッジ通しにコンテで、やがて大天狗の基部に着いた。右手を捲くべく取り付いたが案外悪く、直登しようとオーバーシューズを脱いでみるが、取り付きがハング気味で失敗。

 気がつくと、すっかり暗くなってきたのでビバークすることにし、リッジを少し下った雪面をならしてツエルトをかぶった。ずり落ちるといけないのでゼルプストザイルでハイ松に身体をしばりつけておいた。ビスケットとハムで夕食、ありったけの衣類を着こんで、ともかく眠ることにした、9:00頃。風も出てきて寒い、殊に足の方が寒く、しびれてくる。2時間ほど、それでも眠った。11時ごろになって、寒くてしようがないので、ローソクをつけ、脚の間に挟んで、時々ビスケットとレーズンを口に含む。ローソクがつくと少し暖かくなって、トロトロ眠ることが出来た。

 

2月11日 曇りのち雪

出発(7:45)~縦走路(9:35)~赤岳頂上小屋(10:15~11:00)~県界尾根森林限界(12:00)~谷に下る(14:00)~天幕(17:00~19:10)~清里駅(20:15)

 

 ようやく朝と言うべき時が来る。ともかく日が出るまで待とうと、ビスケットをかじり、ミルクをわかす、それで朝食。日の出を待ち焦がれ、暖かい陽の光の中に立ちたいと思ったが、ついに日は出なかった。いやな雲がたれこめて、周りの山々はすべて雲の中、出発する頃には雪が舞い始めた。一晩の寒さで身体が固まって、ごわごわ言うようだ。大天狗は岩峰の基部、赤岳沢側の雪面をまく。身体が雪に3分の2埋まる。スタッカットで3ピッチ、またリッジに戻り、小天狗の岩場を登って、激しくなった雪の中を縦走路に出た。一つのヤマが過ぎた。

 頂上小屋には雪が降り込んでいた。ピンチフードの羊羹やバターをかじるが、大して食べられなかった。県界尾根の上部は2回ほど急な雪面をトラバースするところがあったが、降雪中でもあり、雪崩が起きそうでいやらしかった。鎖場ではザイルを出した。樹林帯に入るとまた、膝までのラッセル、再びワッパをつけて行軍。

 途中から大門沢に下りるが、河原のラッセルほど、いやなものはない。岩の割れ目、倒木の間に、まったく予告もなしにスポッとはまり込む。胸の上まで入り込んで抜け出るのにひともがきしなければならない。もう半分やけになってポコポコ、ラッセルを続けた。長いこと長いこと、八ッの裾野の長さをいやというほど知らされた。2日間のラッセルに、心身とも綿のように疲れ、フラフラになって、なおもラッセルを続け、夕暮れ、ひどい雪に降られながら天幕に着いた。ついに終わった。ホッとして天幕の中で、熱い紅茶で夕食をとる。今晩は天幕に泊まりたいところだったが、明朝が最終帰京だったので、電報を打つために、撤収して清里に下った。清里の駅の電灯がいやに明るかった。駅のベンチで寒い夜を過ごし、翌日の一番で東京に帰った。

 山の真髄を知った思い。初めての雪のビバーク、1年生には衝撃の体験だった。

 

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