丹沢勘七ノ沢

 


丹沢四十八瀬川右俣勘七ノ沢

 

1960年11月

 

参加者      島田富夫    伊東 毅

 

11月17日

新宿発(6:35)=渋沢(7:40~7:50)=大倉(8:05)~二股勘七小屋(9:00~9:15)~F5(10:45~11:25)~二股(12:30~12:40)~花立山荘(13:10~13:25)~塔ノ岳(13:50~14:05)~鳥尾山(14:45~14:50)~二ノ塔(15:20~15:30)~富士見橋(15:50~16:10)=ヤビツ山荘(16:30~17:00)~大秦野(17:45~17:57)=新宿(19:00)

 

 6時に小田急新宿駅に行く、島田はまだ来ていない。電車はゆうゆう座れた、ボックス席。渋沢からバスで大倉、左へ畦道を通って林道から四十八瀬川の二股へ。勘七小屋で休憩、頭の上を堰堤工事の砂利運搬用のケーブルが通っている。

 河原に下りて遡行開始、堰堤を一つ越えたらF1が現れた。取り付きに棒杭が立てかけられてあり、その上に足を乗せて登る。島田がトップ、快調に登っていく。水に近いので苔がついているが、ホールドが多く、難なく登る。

 F2は傾斜があり簡単。F3は釜が青くいやな感じ。右にトラバースするはずのところだが、どういうわけか左の壁を登る。島田がトップだが、左に寄りすぎて行き詰ったので、代わって先に出る。水際を登るが逆層でいやらしい、でもビブラムのフリクションで、そう手間取らず登れる。それにしてもホールドがみんな下を向いている。続く島田が苦戦、トリコニーでは外傾のスタンスが使えないのが弱い。そこで上から細引きを投げ下ろし、島田のサブを先に吊り上げ、空身で登攀再開、難関突破。確かに鋲靴では難しい、水無のF3でもそうだった。F3では苦戦するなと冗談に言う。右の壁はまったく簡単、伊東が2度も下ることが出来たのだから。

 細引きをしまって、しばらく河原歩き、F4が現れる。下段は3mぐらい、上段は5~6m、右側から楽に上がれる。堰堤をいくつも越していくと、問題のF5.水量は多いが水無のF8ほどの威圧感はない。腹がすいたので、少々早いが昼飯にする。食パンを6枚食べた。食後右手の窪を登り、草付に乗って登路偵察、全体に逆層で少々苦しそう。でも登れるんじゃないかと思う。取り付いてまっすぐ上がろうとするが、ハング気味で苦しい。ホールドが乏しく、胸がつかえて、バランスがとりにくい。2cm、3cmと体をずらし、足をずらしてみるが腕に力が入って、痛くなってくる。とても登れない、オーバーハングの乗り越しに使う腕の力とは、こういうものだろうか、それにしてもすごく疲れる。一段下りて今度は右にバンドのようなものを頼りにトラバース、水際まできて、やっとそこを上がれた。ここまで来たら下るのは困難、仕方ないので完登を目指す。スタンスが小さく外傾している。ホールドも逆層で小さいので慎重に手足を動かす。ここでもビブラムの威力を発揮、大部分フリクションが必要、そのほかのスタンスは1㎝か2㎝ぐらいの細かいもので、しかも水に濡れている。それでも必死の苦闘の末、この難関を突破、登り切ったときは本当にうれしかった。島田も下で笑っている。まき道を伝って、また下に下り、今度は島田の登攀を見守る。しかし、どうにもトリコニーは弱いらしい、一段目のトラバースで外傾スタンスに乗れずに困っている。散々試みた挙句、遂に断念してしまった。島田のくやしさ、察するに余りあり、申し訳ないような気分だった。

 この後、左手のまき道からF5の上に出て、しばらく遡行を続けていくと、立札があり、これより先150m危険、上から木、石が落ちてきます、と書いてある。そこで右手を高捲こうとしたが、道が判然としないので、また引き返して危険地帯に突入。木が落ちていて川床を埋めているが、さらに降ってくることはなかった。しばらく行くと両岸がせばまり、ゴルジュになってくる。水は大分深い、右手をへずるが、壁がかぶっていて悪い。一回水の中に踏み込んでしまって靴の中まで水が入り、靴下がずぶぬれになってしまった。一段上がると今度は左の壁のへずり、ホールド、スタンスとも細かいが、しっかりしているので助かる。島田は右壁を来たが、こちらも悪く、水の中に足を入れて登ってきた。こんなへずりでも落ちたら怪我は免れない。登るのと同じくらい難しい。小滝が続々と登場、なかなか水量が減らない。

 つらい河原歩きでようやく水がなくなってきて、前方にガレが見えてくる。二股で一本、道標があった。右に入って最後のツメ、ガラガラしていやな感じ、だんだん傾斜がきつくなり、浮石多く危険、足首が疲れる。45度近いガレを登り切り、草むらを分けて花立に出た。花立山荘に入ってお茶を飲む、熱くてうまい。

 大倉尾根を塔まで、陽が出てきて暑い。塔では小屋に入らず、頂上で休む。富士が見えるが、足元にはガスが飛んで行く。ヤビツまで3時間半か、表尾根の起伏の多い下りを走る。速いがツルツルしていて滑りそうな道、足もだいぶ疲れている。鳥尾山で立て、三ノ塔は素通り、ガスがひどく視界がきかない。大平山でも一本、ここから長い下りでトラック道、富士見橋でまた立てる。腹がすいて仕方なく、昼飯の残りとクラッカーを出す。歩きながらクラッカーを食べ、広い道をヤビツ峠に着いたがだいぶ暗くなってきた。

 バスの時刻表を見たら17:00発があったので、小屋に入る。感じのいい小屋で、おばさんが一人いた。お茶を飲んでいたらバスが来た。もう暗くなって寒くなってきた。バスの中は眠っていく、大秦野から小田急、うまく座れたので助かった。一応完全遡行出来たのだが、島田がF5の直登を逸したのが心残りで、まるで人のこととは思えず、残念だった。

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                   勘七沢概念図